上智大学法学部 Sophia University Faculty of Law

コースAQUILAを振り返って-今後の展望

岡部:
コースAQUILAも今年度で4年目に入るわけですが、そもそもこのコースを立ち上げたとき、国際関係法学科としてはどのような学生を期待し、また、どのようなコースデザインを考えていたのでしょうか。

森下 哲朗
森下 哲朗
(もりした てつお)
法学研究科法曹養成専攻教授。
専門は国際取引法、金融法、交渉学。
「国際取引法」“Negotiation Workshop”などを担当。

森下:
コースの立ち上げに直接関わったわけではないので設立時の理念については明確に言えませんが、国際社会の中で活躍する人材が求められる中で、とりわけ上智大学という恵まれた環境で英語を駆使してグローバルな視野で考え発信できる学生を育てたいという理念を基にこのコースが設立されたと理解しています。
江藤:
そうですね。英語の基本を学ぶということではなく、英語を駆使して法律や政治の基礎的な学習を行い、それを英語で伝える知識を学生に身に付けてもらいたいという趣旨でコースを設立しました。私が学部長であったとき、前学部長から引き継いでコースの設立に携わったわけですが、上智大学全体の取り組みとしてグローバル教育が推進される中、国際関係法学科としても何か画期的なことを、ということで、英語による高等教育のカリキュラムをスタートさせました。
岡部:
大学全体の取り組みの一貫ということですがが、他の大学でも類似のコースを取り入れている中で、この上智大学で英語による授業をすることの意義は何かといえば、それは、もともと英語になじみの深い、あるいは英語に関心のある学生の受け皿になることだと思います。高校までの英語教育は文法をはじめとして正確な英語を使うことを中心としているのに対し、大学の法学部で法律や政治を勉強する中で、英語を使って自分の専門分野の内容を説明できる力を養うことがこのコースの意義だと思います。
江藤:
コースAQUILAを設立する前には「外書購読」という科目がありました。このコースでは、その「外書購読」講義を解体して、単に英語教材を使って英語を「読む」のではなく、一歩前進した形で、英語で身につけた知識を「使う」セミナー形式を取り入れたというわけです。
岡部:
学生からのフィードバックはいかがでしたか?このコースを作ってよかったと思われるところは何でしょうか?

江藤 淳一
江藤 淳一
(えとう じゅんいち)
法学部国際関係法学科教授。専門は国際法。
「国際法」「国際組織法」「国際人権法」などの講義を担当。

江藤:
コースはまだ始まったばかりですので今後の発展の余地があります。国際法の場合、コースは人権法と人道法に限定しましたが、これは、学生が学部を卒業した後海外の大学に進学する場合、多くの学生が「人権」や「人道法」にかかわるコースを選択するからです。予習量が多いこともあり授業はハードですが、中には非常に熱心な学生もいて、そういう人たちは予習復習の折、日本語ではなく英語の文献を当たり前のように使いこなすようになっています。
岡部:
国際政治学(国際関係論)は元来、戦争をいかに防ぎ平和を確立するかを考える学問ですが、日本での発展の仕方はやや特殊です。つまり、倫理や道徳、もしくは感情レベルでの反戦、いやむしろ「厭戦(えんせん)」アレルギーを含んだ形での学問の発展があります。敗戦国ならではの平和を培って行く方法を考える文献が多く、私は、それ自体は日本が誇るべき知的財産だと思っていますが、その一方で、現実的な観点から国際平和を考えた場合、対立構造がいかに生まれるのかということについてバランスの取れた見方が必要なことも確かです。そして、そのような見方を養う場合、日本語の文献と組み合わせて外国語の文献を取り扱う必要性が生じるわけです。例えば、”The United Nations”の日本語訳である「国際連合」という言葉には、戦争に関わることそれ自体から距離を置いた形で、人々に平和をうったえるニュアンスが感じられますが、もともとこの組織は、ご承知のように第二次大戦の戦勝国が敗戦国を管理する目的で設立されたわけです。つまり、平和を取り戻す、あるいは持続的な平和を達成するということが国によって異なる概念と結びついて検討されているのが我々を取り巻く世界であり、そのことに気づくのは重要なことだと思います。
森下:
今や情報の大半は英語で流通していますから、英語が使えないと情報収集も不十分になりますよね。それに、英語で発信できないと国際社会に対応できません。このコースは英語で発信するための練習場としてぜひ活用してほしいですね。決して帰国子女や英語の堪能な方々のためだけのコースではなく、多様な人に受講してほしいと思います。
江藤:
先ほど国による学問の発展の違いについてお話が出ましたが、国際人権法の教科書もアメリカ、カナダ、ヨーロッパなど国によって(また書く人によって)内容が異なります。その中で、できるだけバランスの取れた選定に腐心しているつもりです。ただ、日本の教科書と違う内容が書かれている場合、学生にその文化的背景の違いまで理解させられるかどうかは難しいところですね。

岡部 みどり
岡部 みどり
(おかべ みどり)
法学部国際関係法学科教授。専門は国際関係論、人の国際移動研究。
「国際政治学」”International Institutions and World Order”などの講義を担当。

岡部:
テキスト選定が難しいということは確かに痛感します。日本の特殊性は研究者の間ではもちろん前提ですけれど、学生にとっては、自らが日本の書物を通じて学んでいることが普遍的だと考えてしまいがちです。自らの考えが良くも悪くも偏っているということ知るのは早ければ早いほど良いと思います。このコースはそのためにも役に立つでしょう。
森下:
国際的なビジネスの現場では英米法が主流なので、日本法だけ知っていてもグローバルに活躍することが難しいです。また、こちらの考えをきちんと伝えるためには相手の言っていること、感じていることを理解できなければなりません。実際に社会に出た後、他の国の人が考えていることを理解し日本で考えられていることを英語で的確に伝えることができることがグローバルに活躍できる人材となるための早道ではないでしょうか。
岡部:
そうですね。それに、何も舞台は米国や英国だけではないですよね。アジアの人々とどのように対話するか、ビジネスの機会が増える中でどのようにコミュニケーションをとっていくかがこれからどんどん重要になってきますよね。そのためにも公用語としての英語は不可欠ですね。
森下:
各国の法はその国の歴史・社会・言語などに結びついていますので、外国の人にしっかりとわかってもらえるように伝えたり、外国の人の話をしっかりと理解するためには、幅広い学びが大切です。また、もともと持っている「常識」が違うかもしれない人たちとしっかりとコミュニケーションを図りながら議論するためには、理解し伝える能力が必須です。
岡部:
「常識」が違う、という点に学生自身が気付くことにもコースの意義があります。日本語でやり取りしている場合は、ゼロの状態から自然に情報を加えて発信していきますが、外国語(英語)でやり取りするときは、自分が常識だと思っていた点が理解されないというケースが発生しうるわけです。そういう場面に遭遇したときは、日本の特殊性を理解し、その上に積み上げる形でコミュニケーションを図らなければなりません。
江藤:
英語での授業をやる意味は、普通日本語で議論しているときとは違う状況に置かれるため、学生にとっても刺激になりますよね。「自分も議論に加わりたい」という気分になるというか。
森下:
グローバルな場で活躍する日本人を見ても決してネイティブのように話せている方ばかりではないと思います。流暢に話せれば良いに越したことはないですが、ある意味、グローバル化した現代社会において英語は「標準装備」で求められるものだと思いますので、ぜひ、英語でコミュニケーションすることを躊躇しないようになってほしいと思います。
江藤:
このコースには特に目標を定めていません。どのように使っても学生の自由です。参加する学生自身が目標を設定してくれれば良いと思います。
岡部:
主体的に自分で学習目標を設定してもらうための機会として活用していただきたいですね。英語でやり取りすること自体は苦にならない人もたくさん入ってきている上智ならではの環境で、専門的知識に関する自己発信能力を身につけるという啓発的なコースだと思います。
森下:
日本の大学で学んだ以上、日本のことをしっかりと理解し伝える能力が大前提で、これが身に付いていないと世界に出ていったときに尊敬されないと思います。しっかりと日本のことを勉強し、さらに外国から学んだことを活かして、自ら考え、発信できる人が育ってくれると良いと思います。
江藤:
確かに、外国に行ってまず聞かれるのは日本のことですよね。日本の立場を知った上で発信するということが重要だと私も思います。
岡部:
日本の世界との関わり方は、かつては、欧米のスタンダードを日本が無批判に受け入れているという状況であったように思いますが、現在は、もっと相対的に日本を振り返ることができる風潮になってきていますよね。単に英語の文献を読むだけでなく、読んだ上で日本の立ち位置を考えなければならない。グローバルな事象についての知識があるだけでは不十分で、後者を補うコースでもあるべきだと考えています。

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