上智大学法学部 Sophia University Faculty of Law

コースAQUILA(アクィラ)の現状について

 2015年12月1日、AQUILAのコース生である北川幸恵(国際関係法学科2年。当時)さんが、その当時、国際関係法学科長を務めていた駒田泰土教授にインタビューしました。本記事は、それを採録したものです。

 (「コースAQUILA」は、英語による法学教育を学部レベルで行うための特修コースです。本コースの簡単な紹介については、別ページをごらんください。)

北川:
2014年度から「コースAQUILA」が始動しました。駒田先生は、国際関係法学科長として本コースを統括しておられるわけですが、これまでのところ順調にコース運営がされていると思われますか。
駒田:
国際関係法学科の特修コース「コースAQUILA」は、おっしゃるように昨年(2014年)スタートし、幸いにも60名を超える登録者がありました。このコースを作ったとき、「20名くらいが登録し、多くて10名くらいが所定の科目を履修して修了証を得る」くらいの目算だったのですが、予想外の登録者の多さでした。もっとも、最後までふみとどまってコース修了証を取得する学生の数が、結局、どのくらいになるのか、まだ見当がつきません。今年(2015年)の登録者数は、昨年ほど多くはないですが、それでも30名を超える登録があったと聞いております。
 本コースは、まだワン・サイクル実施されていません。最初の修了者を出すまでは、コース運営は、予断を許さない状況が続きます。ちなみに、運営に携わっているのは私だけではなく、統括委員会に所属する複数の先生とともに運営にあたっています。
北川:
本コースは、英語による法学教育を謳っているわけですが、帰国子女など、もともと英語に強い学生を除いて、出席者は授業に十分ついていけているのでしょうか。
駒田:
本学科を受験して入学してくる学生さんは、帰国子女の方々を除いても、かなりの英語力の持ち主です。実際にデータをみてみると、本学科の学生は、入学後のプレイスメント・テストで外国語学部英語学科の学生に次ぐほどの英語力を示しています。ですから、教材として英語文献が用いられることは、彼らにとってたぶん大きな壁ではないでしょう。問題は、教材のみならず使用言語がすべて英語になる、いわゆる「E/E」の授業でコース登録生がどれくらい授業についていけているのか、といった点ですが、これは私を含むコース統括者の先生方も気にされているところで、学期ごとに学生及び教員に対してアンケートを実施し、状況把握に努めています。いまのところ、講師からも受講している学生からも、「概ねついていけている」というアンケート結果が得られています。
北川:
E/Eの授業は、ネイティブであるギブンズ先生が主に担当しておられますが、ネイティブではない日本人の先生が担当している授業もありますね。
駒田:
現段階では、専任教員でネイティブなのはギブンズ先生だけですが、非常勤の先生でネイティブの方が複数おられます。ネイティブではない日本人の先生がE/Eの授業を担当することに関しては、コース創設時に様々な議論がありました。もちろん反対論もあったのですが、ネイティブではない日本人がネイティブらしく話せないのは当たり前で、しかしそれを前提に、海外に情報発信していこう――そういう気概をもった学生を育てるためのコースなのだから、担当者をネイティブ教員に限定する必要はないという意見が多数を占めました。実際、国際会議などでは、およそネイティブらしくない英語で、しかし堂々と意見表明する専門家というのは、珍しくない――というか、必ずいますからね。海外では、ネイティブらしく話せないことを理由に何も意見表明しない人のほうが、ずっと低く評価されます。この点は強調したいのですが、「コースAQUILA」は、英語をブラッシュアップするためのコースではありません。

コース科目(E/E)の授業風景
コース科目(E/E)の授業風景

北川:
「コースAQUILA」では、英語の教材を用いた日本語の授業(「E/日」の授業)も相当数用意されていますが、これは従来の外書講読の授業とどう違うのでしょうか?
駒田:
ネイティブではない日本人は、そもそも外国語の法学概念をいったんは日本語に置き換える必要があるわけで、E/日の授業の充実なくして、本コースの目標を達成することはできません。このE/日の授業が、従来の外書講読とどう違うのかをはっきりと説明するのは難しいのですが、従来の外書講読がともすると読解力のみを重視していたところ、本コースのE/日の授業では、よりソクラティック・メソッド志向になっていると思います。つまり、教員と学生間の対話を重視した授業スタイルです。そこでは、単に情報を受け取るだけではなくて、自分の頭で考え、表現する力が求められます。
北川:
上智大学では各種の海外短期研修プログラムが展開されていますが、ほとんどは大学が主催するプログラムです。しかし、法学部が主催する海外短期研修プログラムというものもありますね。それらのプログラムは、「コースAQUILA」とどのような関係があるのでしょうか。
駒田:
法学部が現在主催している海外短期研修は、2つあります。協力校が西オーストラリア大学(UWA)のものと、ジョージ・ワシントン大学のものです。前者が春休み、後者が夏休みの期間を利用して実施されています。大学が主催する海外短期研修のほとんどは、法学とは必ずしも関係しない内容のものですが、法学部が主催するこれらのプログラムでは、参加者は、現地校で法学を重点的に学ぶことができます。法学部生であれば学科を問わず参加することができ、無事にプログラムを修了すると、学科科目として4単位が算入されます。
とくにUWAの短期研修については、私が現地校に赴いて、授業の質を調査しました。その調査をもとに、2015年度からは、UWAのプログラム修了をもって本コースのコース科目としても2単位の算入が可能である、というように制度を変えました。これによって、より多くのコース生がUWAの短期研修制度を利用してくれれば、と願っています。
ジョージ・ワシントン大学の短期研修のほうは、昨年度は、応募者が最少催行人数に達しなかったために実施されませんでした。国内で企業のインターンが実施される時期と重なっていたり、コスト・ベネフィットの観点から、利用しにくい面があるのかもしれません。この最少催行人数の問題をクリアしやすくするために、現在、他大学に共催を呼び掛けているところです。
北川:
「コースAQUILA」を統括されている先生方は、そうしたカリキュラム上の問題のほかに、どのようなことをマネージしているのでしょうか。
駒田:
ときどき、ランチ会や茶話会を開催しています。コース生であれば、参加は自由です。主に、コース生にとってロールモデルとなるようなOB/OGをお呼びして、簡単な講演をしてもらっています。直近の茶話会では、上智大学法科大学院を修了して弁護士になられ、ロンドン大学クイーンメアリーカレッジと米国ペンシルベニア大学に留学し、LL.M.の資格を取得された臼井康博(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)さんに来校してもらい、日米のロースクール事情の比較など、興味深いお話をうかがうことができました。なかなか活字になっていないような、生きた情報に接することができたのではないかと思っています。コース科目を担当している教員と授業を離れて意見交換を行えるのも、ランチ会や茶話会のよいところではないかと思います。
また、教員はほとんどかかわっていませんが、現役のコース生が運営する本コースの公式Twitterアカウントが開設されていて、何か新しい情報が入れば、フォロアーの間でシェアされるようになっています。もちろん「公式」のアカウントである以上、投稿される情報の内容について、教員のほうで最低限のチェックはしていますが……しかし、各々のレスの管理まではやっていません。それは運営者である学生さんに任せています。

2015年11月18日に行われた臼井さんの講演の様子。
2015年11月18日に行われた臼井さんの講演の様子。

北川:
最後に「コースAQUILA」に関連して何か付け加えたいことはありますか?
駒田:
とくに何も……個人的なつぶやきでよければ。私のような日本法の学者が日ごろ思っているのは、日本法について英語で発信することの難しさです。
法律というのは、国ごとにコード(法典)があって、もともとドメスティックなものです。日本で法律家として活動するのであれば、日本法だけを知っていれば十分だし、日本法を知るには、日本語だけを知っていれば十分です。そんなこともあって、日本法に関する情報は、これまであまり英語化されてきませんでした。また、法体系的にもヨーロッパ大陸法の流れをくむ法律が多く、自然な英訳が難しいことも理由の一つに挙げられると思います。
とはいえ、日本法についても、グローバル社会の共通語である英語で発信する要請が強まってきています。それこそが、本コースが創設された理由の一つです。
そんな時代の要請を受けて、さすがに法律(条文)に関しては、英訳が容易に入手できるようになってきました(法務省「日本法令外国語訳データベースシステム」)。ですが、判例となるとまだまだ十分でなく、どこかで公表されたものだけできちんとしたケースブックを作ることは、ほぼ不可能です。
ですから、ごく基本的な教材さえ、教員が手ずから用意しないといけない。そんなこともあって、現在、コース科目の中に日本法の科目は少ないです。
ただ、法体系は異なるにせよ、コース生は、コース科目であるアメリカ法と並行して、通常の学科科目である日本法を学びますから、間接的な形であるにせよ、日本法について英語で発信するための基礎的な部分は、ある程度涵養されるのではないかと思っています。
こうした教育は、従来、研究大学院で行われていました。本コースの創設によって、それが学部段階まで一部降りてきた形になりましたが、大学院と全く同じレベルの教育はできないので、教員は一層丁寧に教えることが必要でしょうね。難しいところです。