上智大学法科大学院 Sophia Law School

国際関係法の多様なカリキュラム展開

 グローバル化の時代、法律家には国際的な視野が求められます。自分は国際関係には関心がないと思っていても、いつ皆さんの依頼者が国際的な案件の相談に来るかは分かりませんし、いつ国際的な案件を担当することになるかは分かりません。皆さんが考えている以上に国際的な要素を含む法律問題は頻繁に発生しています。

 上智大学は国際関係に強いことで知られており、法科大学院のカリキュラムも、国際的な舞台で活躍しようとする人にとって必要十分な内容を提供するものとなっています。公法系の科目としては、国際法基礎、国際人権法、国際経済法が、私法系の科目としては、国際私法基礎、国際私法、国際家族法、国際取引法、国際民事紛争処理、国際取引法の現代的課題が展開されています。このほか、第一線で活躍する弁護士が英語で国際ビジネス法務の実際を講義する Law andPractice of International Business Transactionsという科目もあります。

 将来に備えて国際的な問題についての基礎を勉強しておきたいという人から、国際法務を扱う弁護士やインハウス・ロイヤーになりたいという人まで多様なニーズを十分に満たす授業が用意されています。

国際的な舞台で活躍するための素養を養うための充実したカリキュラム

国際仲裁・ADR 《模擬仲裁・模擬調停・予防法務ワークショップ》

 年1回、長期休暇を利用して3日間かけて行う特色あるプログラムです。日本有数の法律事務所である長島・大野・常松法律事務所から、例年20名余りの弁護士の先生方の御協力を得て、仲裁と調停という二つの異なる手続のロールプレイやグループディスカッション等を実施しながら、準備の仕方、準備書面の作成の仕方、説得力ある法的主張の仕方、依頼者への説明と関係調整、望ましい解決に向けた柔軟な思考の必要性、予防法務的視点等法曹に要求される基本的な素養を実践的に学びます。

 参加者は、仲裁人・調停人役、あるいは、当事者代理人役で参加します。弁護士の先生方は仲裁人・調停人役あるいは、依頼者役としてロールプレイに参加されたり準備書面や仲裁判断等について講評してくださったりします。

 このプログラムは、平成16年から18年にかけて実施した法科大学院等形成支援プログラム、および、平成19年から20年にかけて実施した専門職大学院等教育推進プログラムの成果を結実させたもので、例年、参加者から極めて高い評価を得ています。国際法務に関心がない人にとっても、極めて有意義な内容となっています。この取組みは、文部科学省の「法科大学院公的支援プログラム」でも採択されるなど、高い評価を受けています。

国際仲裁・ADRワークショップ参加者の声(一部紹介)

国際関係法(公法・私法)の科目体系

公法系科目のカリキュラム展開例

国際人権法

 今日の人権問題、とくに外国人の人権をめぐる問題は、憲法ばかりではなく、国際法の問題でもあります。人種差別、退去強制、難民認定等の問題に関し多数の訴訟が提起され、そこでは国際人権規約、人種差別撤廃条約、児童の権利条約等の解釈適用が一つの争点となっています。この解釈に際しては、国際的な動向、とくに欧州人権裁判所の判例や各人権条約の実施機関の意見を参照しつつ議論が行われています。こうした日本における人権訴訟を素材として国際人権法を学ぶことは、憲法における人権保障を相対化する視座を与え、その理解をいっそう深めることにつながると考えています。

国際経済法

 通信・輸送手段の発達により経済のグローバル化が急速に進展する現代では、ヒト・カネ・モノの自由な国際移動を保証するルール、つまりWTOやTPPに代表される国際経済法がビジネス環境を規定します。授業ではWTO協定を中心に、主に貿易を中心に、自由・無差別・多角的な経済体制を保障する国際的な法的枠組の理解を目指します。

公法系科目とキャリア

 伝統的には、国際関係法(公法系)の知識を必要とするキャリアは、主に外務省をはじめとする官庁(公務員)であり、法曹三者が実務で直接にこれらの知識を必要とする場面は必ずしも多くありませんでした。

 しかし昨今、領土問題、TPPに代表される国際経済関係、また移民・不法入国者の在留資格問題など、法曹は否応なしに国際的環境下の法的課題を意識せざるを得ません。法曹実務が取り扱う課題も国際化し、人権・経済分野で公法関係の知識を必要とする機会も増えています。修了後、外務省等の官公庁に進む場合はもちろん、企業法務等に携わる場合も、この分野の知識は重要なバックグラウンドとなることでしょう。

私法系科目のカリキュラム展開例

国際私法・国際家族法

 国際私法とは、国際結婚や国際契約のような私人間の関係を規律する国内法です。日本では、「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」)第4条以下に国際私法に関する規則が定められています。国際私法・国際家族法の講義では、【課題】(事例問題)を使いこの通則法を使いこなすための訓練を行います(「国際私法」は親族・相続分野以外の分野を取り上げ、国際家族法」では、国際私法の受講を前提に、親族・相続分野を取り上げます)。なお、国際私法系科目の導入科目として「国際私法基礎」が設けられています。

国際取引法

 国際的な売買契約を中心に、国際的な商取引に関する法的問題を、適用法規、主体、契約、規制、紛争処理等、多様な角度から総合的に検討します。①売買取引等代表的な国際取引の仕組みと、民商法・国際私法・国際民事紛争処理・独禁法等の関連する諸分野における国際取引に関する日本法や国際的なルールの内容や考え方などについて、基本的な理解を得ること、②実務的な視点も意識し、そうして得た知識を具体的なケースへ当てはめていく能力、実践的な力を養うこと、が本講義の目的です。国内外の判例、事例問題や実際に使われている契約書等を教材として使用しながら、総合的・分野横断的な検討を行います。

私法系科目とキャリア

 私法系科目では、国際的な契約関係に関する法的問題を扱います。

 昨今、経済のグローバル化が進み、20年前と比べて、日本の輸出入の貿易総額は約2倍に、日本に在住する外国人の数は約1.5倍に増加しています。これに伴い、国際的な法律問題に適切に対応できる法律家に対するニーズは高まっています。国際取引等を主要業務とする渉外関係の法曹のみならず、一般の法曹においても、国際的な契約や国際的な結婚・親子関係・相続等に関する法的問題に対処できる知識と能力は、依頼者のニーズに応えるために重要であるとともに、皆さん自身のキャリアの幅を広げる上でも有用です。企業で活躍するうえでも、国際私法や国際取引法に関する理解は、大きな価値を持つものといえるでしょう。また官公庁等においても、これから予想される国際貿易の枠組の変動にあたり必要とされるこれらの法分野の知識は、一層重要性を増すものと見込まれています。