座談会
<2015年2月18日収録>
出席者
森下 哲朗 教授
長島・大野・常松法律事務所 弁護士
石井 文晃 教授
虹の橋法律事務所 弁護士
岩崎 政孝 教授
森下 哲朗 教授
- 森下先生(司会)
- 今日は法科大学院で学ぶことの意義などについて、実務家教員の先生お二人に色々お話を伺いたいと思います。最初に先生方からそれぞれお仕事と主な担当科目についてお伺いできますでしょうか。石井先生からお願いします。
- 石井先生(弁護士)
- 私は大規模な法律事務所で仕事をしており、主に企業法務を取り扱っています。ロースクールでは企業法務演習、ネゴシエイション・ロイヤリング、国際仲裁・ADRなどを担当しています。
- 岩崎先生(弁護士)
- 私は弁護士スタッフが4人の法律事務所の共同パートナーとしての仕事もしています。2013年3月までは司法研修所の教官をしておりました。民事、刑事の模擬裁判、法曹倫理などを担当しています。
法科大学院の授業で伝えたいこと
- 森下
- 法科大学院の授業ではどのようなことを学生に伝えたいとお考えになっていますか。
実務家の思考方法を伝えたい
- 石井
- お答えするのが難しいテーマではあるのですが、私はわざわざ弁護士がロースクールで教えていることの意味は何か、ということを常に意識するようにしています。たとえば、実務の世界は、まず解決すべき問題と関連する事実があって、その事実からどういう議論が可能だろうかですとか、どういう解決方法があるだろうかという流れで思考していきます。これに対して、通常の法律科目の講義では、まず観念的な原則とか法律の条文からスタートすることが多いように思いますので、思考方法がやや異なっています。私からは、そうした違いを踏まえて、実務の目から見るとこういう所が問題になり得るんじゃないかとか、こういう視点も大事ではないだろうかとか、そういった別の角度からの思考方法を伝えるようにしたいと思っています。
法律実務家としての高い志を持ってほしい
- 岩崎
- 石井先生が指摘された点に加えて、法律実務家になるという高い志を持ってもらいたいという気持ちで授業をしています。実務家の仕事は、弁護士・裁判官・検察官、そして、弁護士の中でも企業法務、一般民事、刑事、労働など、実に様々な分野の仕事があって、仕事の可能性が以前にも増して広がっていると折に触れて話すことで、そういった世界で個性を発揮して活躍するための高い志を持って学んでほしいと思っています。また、私たちの仕事は社会の中で生起するトラブルや課題の解決を目指したり、予防したりすることが中心になり、そこに法律実務家のニーズがあるのですから、新しい社会的問題について、ぜひ関心をもってほしいと伝えています。
法科大学院で学ぶ意義
- 森下
- 法律家を目指すうえで、法科大学院で学ぶことの意義についてお話しいただけますでしょうか。
実務の第一線で活躍する実務家と触れ合える
石井 文晃 教授
- 石井
- 法科大学院で学ぶことのメリットとして間違いなく存在すると思うことは、手前味噌ではありますが、実務の第一線で仕事している人と直に触れあうことができて、その人の考え方を知ることができるという点だと思います。考えてみれば、私自身は学生時代、弁護士の方と話したことがほとんどありませんでした。自分が目指している職業なのにその人がどんな仕事をしているのかを知る機会がなかったというのは、とても違和感があると今になって思います。ロースクールでは、学生の皆さんがこれから目指していく先に何があるのかを非常に身近に感じることができますし、弁護士・裁判官・検察官の仕事のことや、そういう方がどういうことを考えているかについて、いろいろな話を聞いたり議論したりすることができると思います。
画一的ではない多様性のある教育がポイント
- 岩崎
- 法科大学院教育の肝は、画一的ではない多様性のある教育です。法律実務家は、複眼的な視点で想像力を働かせて物事を見なければ本質が捉えられないし、具体的な問題の解決にも至ることはできません。上智大学でもそうですが、法科大学院では、多様なカリキュラムやカリキュラム外のメニューが準備されていて、自分の目的に従って選択できるという幅があり、授業では、具体的な事例を読み解きながら教員の設問に対して応答したり相互にディスカッションしたりする中で多様な視点で具体的に分析しコミュニケーションすることを学ぶ、そういう教育の実践がポイントではないかと思います。
- 森下
- 岩崎先生は司法研修所の教官もされていましたが、司法研修所での教育とはかなり違うのでしょうか。
希望進路に応じて法科大学院を活かす
- 岩崎
- 司法研修所は法律実務家の養成だけを目的としていますが、法科大学院は、法律実務家を中心としつつも、企業、行政、国際組織などに所属する中で学んだ知識を生かすという進路選択があっていいという前提で、基礎から発展・先端レベルまで多様なカリキュラムや授業プログラムが組まれています。学生が希望する進路に従ってうまく活かせば、自分の付加価値を高めるための非常にいい学修ができるはずです。
学んだことをどうやって社会に活かしていくかを考えてほしい
- 石井
- 法科大学院というのは法曹養成が目的ではありますが、本来的にはもっと広い役割があって、ロースクールで学び、法務スキルを身に着け、法曹資格の有無にかかわらず、社会の様々なところでそのスキルを生かして活躍する人材を輩出するということこそが大事だと思います。もちろん、司法試験を目指してロースクールに来られる方が大半なのだろうと思いますけれど、ロースクール自体は必ずしもそのためだけにあるものではないと考えています。ロースクールを単なる通過点と考えず、学んだことをどうやって社会に活かしていくかを自分自身でしっかりと考えてほしいと思います。
優れた実務家を目指すプロセスの中で司法試験を位置付けることが大切
岩崎 政孝 教授
- 岩崎
- 法律実務家になるとしても司法試験が終着点ではありません。私たちは実務家として活用する基本的な技術を獲得するために学んでいくわけですから、それを意識しない勉強ということは本来あり得ない訳です。法律家としての基本的スキルの獲得を目指しつつ、そのプロセスの中で司法試験を位置づけることが大事であって、最近の試験問題を見てもそれは可能なことではないかと思います。去年の卒業生から法科大学院の授業を中心に置いて司法試験の勉強をしたという声を聞きました。法科大学院の法律基本科目の授業を活かして試験をも意識した学修を積み上げながら、自分の将来を見据えて実務科目を学び、基本的な技術と早く実務家になりたいというモチベーションを高めて司法試験合格を勝ち取った方が何人もいたのです。司法試験のことを考えて実務科目には目が向かない現実もあるのだと思いますが、実際に合格した人たちは必ずしも近視眼的な意識ではやっていないし、優れた実務家を目指すには法科大学院で学ぶ利点を生かして自分の付加価値を高めることが何より大切だと伝えていくことが必要だと思っています。
授業の成績の良い人は高い確率で合格
- 森下
- 確かに、上智の過去のデータをみても、ロースクールでしっかりとした成績を取っている方は、司法試験に高い確率で合格されていますし、優れた成績を取られる方は、実務科目についても熱心に取り組まれて、しっかりとしたパフォーマンスを示されている方が多いと思います。
一番大事なことを理解している人が合格する
- 石井
- 法律を勉強するというと、何となく条文や判例がどうなっているということに目が向きがちですが、その背景にある原則や制度の趣旨は何かということを正しく理解したうえで、それを論理的に説明できるということこそが、本当は一番大事なことです。極端な言い方をすれば、法律の各条文などは、そうした論理的思考を学ぶための材料でしかないとすら考えられるように思います。ロースクールで成績の良い人というのは、恐らくそういった視点をきちんと持っていて、何が大事なのかということを理解しようとする人であろうと思います。また、そういう人が司法試験にも合格できるのだろうと感じます。
上智ロースクールについて
- 森下
- 上智のロースクールについて感じていらっしゃることをお聞かせ頂ければと思います。
伝えたいことが伝えられる場
- 石井
- この座談会で私が申し上げてきたような認識が、わりと広く共有されているロースクールであると感じています。そのため、自分が学生に本当に伝えたいことを伝えることができるロースクールだと感じています。その意味で、かなり自由にやらせてもらっています。(笑)
適正規模と恵まれた環境
- 岩崎
- 人数が適正規模だということが学ぶ側にとっても教える側にとっても大きなメリットです。必修科目のクラスは2、30人前後くらい、選択科目になると10人位の授業もあります。そのため、教員と学生の距離が近く、3、4回授業をやれば学生の顔と名前が一致するようになります。教員は個々の学生の考え方の特徴や学修の進度を理解したうえで授業ができますし、意欲がある学生は教員に個別に質問や相談ができる機会が身近にあります。例えばエクスターンシップにしても学生数を満たす多様な派遣先が準備されているので、自分を伸ばすチャンスが豊富にある恵まれた環境です。図書館、自習室などのハード面や通学の便などの環境が良いという特徴も学習面では大切なことだと思います。
法科大学院を目指している方へ
- 森下
- 最後に、法科大学院を目指している方々に向けて何かメッセージをお願いできますでしょうか。
将来どのように社会に役立ちたいかを考えて欲しい
- 石井
- ロースクールでの勉強は、いわゆる「リーガルマインド」を会得し、物事をぶれないで見ることができる、何が本当に正しいのか、どういう風に考え行動すべきなのかということを理解して、論理的に説明していくということができるようになることが大切だと考えています。上智大学法科大学院は、そうしたことができる人を育てるということをとても大事にしているロースクールではないかと思っていますが、司法試験に通りさえすればいいんだということではなくて、もっと広い意味で、将来自分がどのように社会に役立っていきたいか、という思いをもっていただきたいし、そういう思いがあればロースクールの勉強というのはすごく楽しいものになるのではないかと思います。
高い志をもって積極的にチャレンジして欲しい
- 岩崎
- 世の中が動いているということは、法律実務家の仕事の可能性が広がっているということです。法律という社会生活の基本となる一つの物差しを適切に使うことができる技術や複眼的な法的思考は、社会の中で重要な役割を果たすために活かすことができる強い武器になります。ですから、ぜひ高い志を持って自分の可能性を伸ばすために積極的にチャレンジして欲しいと思います。